あの日、SunnyOrange号は宙を舞った。
2012年夏 トライアスロン珠洲大会Aタイプ。
バイクコース最大の難所、大谷峠。
軽量のカーボンに比べ、登坂では不利になるクロモリのロードバイク、
ANCHOR RNC7を
僕は押して歩いていた。
そもそもバイクは苦手な上に練習不足。
得意なランに足を残すため、ここは無理をせずにバイクを降りる判断をした。
Aタイプのバイクは2周回。最大斜度16%の大谷峠を2度登る。
歩いて峠を越えると、すぐに下りの急な右カーブがある。
1周目は他の選手もいたため、接触に注意しながら慎重に進んだ。
そして2周目、やっとの思いで峠を越えた。
たまたま周囲に他の選手がいなかったため、
歩いた遅れを取り戻そうとペダルを踏み込んだ。
1周目よりも速いスピードでカーブに進入する。
スピードを殺さないため最低限のブレーキでカーブを曲がろうと思った。
しかし気づいた時には、コントロールできないスピードになっていた。
「曲がり切れない!」
精一杯ブレーキを握ったはずだが、バイクは止まらない。
目の前にガードレールがどんどん近付いてくる。
体を倒して落車したらおびただしい擦過傷に見舞われるだろう。
一瞬そんな恐怖を覚え、体を倒す選択はできなかった。
「ぶつかるしかない。」
そのまま前輪からガードレールに突っ込んだ。
強い衝撃とともに体とバイクが宙に浮いた。
ビンディングが外れ体は空中でひっくり返る。
頭上には宙を舞うロードバイク。
林の斜面に落下した体はゴロゴロと転がり落ちる。
「止まれ!早く止まれ!」
ほんの数秒の出来事だか、その時はどこまでも転がり落ちるかのように思えた。
数メートル斜面を転がり落ち、ようやく体は止まった。
「良かった。生きてる。」
倒れたまま呆然としていると、スタッフが助けに来てくれた。
すぐに救急車を呼んでくれると言う。
体を抱えられながら斜面を登り、道路に戻る。
バイクも別のスタッフが回収してくれた。
「救急車…、ここでリタイヤか…」
自分も含め、そこにいた誰もが当然リタイヤだと思った。
続く…
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